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東京地方裁判所 平成5年(ワ)14293号 判決

甲事件原告

パトリシア・ダニエルズ

右訴訟代理人弁護士

長谷川健

藤勝辰博

乙事件原告及び甲事件被告補助参加人

(以下「乙事件原告」という。)

パトリック・ジェームズ・ダンフオード

右訴訟代理人弁護士

斉藤信一

高橋豪

武藤佳昭

甲事件被告及び乙事件被告(以下「被告」という。)

日本アムウェイ株式会社

右代表者代表取締役

リチャード・エス・ジョンソン

右訴訟代理人弁護士

野村晋右

柳田直樹

田川貴浩

主文

一  乙事件原告と被告との間において、乙事件原告が別紙目録記載の契約上の地位を単独で有することを確認する。

二  被告は、乙事件原告に対し、別紙目録記載の契約上の地位の名義を乙事件原告の単独名義に変更することを承認せよ。

三  甲事件原告の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じ、被告に生じた費用の二分の一、甲事件原告に生じた費用及び参加により生じた費用を甲事件原告の負担とし、被告に生じたその余の費用及び乙事件原告に生じた費用を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件

甲事件原告と被告との間において、甲事件原告が別紙目録記載の契約上の地位の二分の一を有することを確認する。

二  乙事件

主文第一、二項と同旨

第二  事案の概要

本件は、被告の製品の販売活動に関し夫婦である甲事件原告(妻)及び乙事件原告(夫)が共同名義により被告に対して別紙目録記載の契約上の地位(以下「本件地位」という。)を有していたところ、その後離婚したため、被告に対し、甲事件原告において本件地位の二分の一の帰属を主張し、乙事件原告において本件地位の単独帰属を主張して、それぞれの地位の確認等を求めている事案である。

一  基礎となる事実(証拠を掲げた部分以外は当事者間に争いがない。)

1  乙事件原告は、昭和五四年五月二三日、被告との間で、乙事件原告が、自ら被告の製品の販売活動に従事し、又は販売のための系列を組織し下位の者を援助育成して販売活動に従事させ、これに対し、被告が、被告製品の購入実績に応じて各種名目の報奨金を支払うこと等を内容とするディストリビューター契約と称する契約を締結し、被告のディストリビューターの地位を取得した(甲事件原告との関係で、乙三)。

2  次いで、乙事件原告は、昭和五五年八月ころ、被告の定める一定の要件を充たしたとして、被告との間でダイレクト・ディストリビューター契約を締結し、右両契約に基づき、ディストリビューターの地位よりも上位に当たるダイレクト・ディストリビューターの地位を取得し、その後、さらに上位のエメラルド・ダイレクト・ディストリビューターの地位を得た(甲事件原告との関係で、乙三)。

3  他方、甲事件原告は、昭和五四年ころから、乙事件原告とは無関係に、母とともに、被告との間でディストリビューター契約を締結し、被告のディストリビューターの地位を取得した(乙事件原告との関係で、弁論の全趣旨)。

4  乙事件原告は、昭和六〇年七月四日、甲事件原告と婚姻したが、その際、甲事件原告をダイレクト・ディストリビューターの地位のパートナーとして、被告に申請した結果、被告が保管するダイレクト・ディストリビューター・マスター・ファイルの原簿に原告らの共同名義による本件地位が記録された。

5  しかし、乙事件原告は、平成二年二月一四日、アメリカ合衆国において甲事件原告と離婚したため、甲事件原告を相手取り、離婚に伴う夫婦の共有財産の所有権移転等を求める訴訟を提起したところ、同国バージニア州プリンス・ジョージ郡巡回裁判所は、平成三年七月三〇日、本件地位の帰属等を内容とする判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡し(甲ロ一の1、2)、同州控訴裁判所も、平成四年七月一四日、右判決を不服とする甲事件原告の控訴を棄却し(甲ロ二の1、2)、その後、控訴審判決に対する上告期間の経過により、本件外国判決は確定した(甲ロ三、四、三一の各1、2。なお、右判決の確定の点については、いずれの当事者も争わない。)。

二  争点

1  本件地位に関する原告らの間の権利関係は、本件外国判決それ自体により、どのように確定されたか。

(一) 乙事件原告の主張

本件外国判決は、乙事件原告は、本件地位を単独で取得するか、甲事件原告に対し本件地位の評価額に相当する三〇万ドルの支払請求をするかの選択権を有するが、後者を選択した場合でも、甲事件原告が本件地位における権利を乙事件原告に譲渡したときは、右三〇万ドルの支払義務を免れることを確定したものである。そして、乙事件原告は、前者を選択したのであるから、本件外国判決により本件地位を単独で取得した。

(二) 甲事件原告の主張

本件外国判決は、裁判所が本件地位の移転を命ずる権限のないときは、離婚に伴う財産分与として乙事件原告に甲事件原告に対する三〇万ドルの金銭支払請求権を与えたものである。すなわち、本件外国判決には、その基礎とされた一九九一年六月二六日付け意見書(以下「本件意見書」という。)の「仮に当裁判所が譲渡を命ずる権限を欠いているときは、当裁判所は乙事件原告に三〇万ドルの金銭支払請求権を認め、甲事件原告はこれを支払う代わりに本件地位における権利を譲渡する選択権を有する」との記載のうち、「仮に当裁判所が譲渡を命ずる権限を欠いているときは」の部分に該当する判示は見当たらないが、その趣旨は本件意見書と同一であり、右仮定説示部分は、本件外国判決の効力が他州又は外国で認められない場合を指すところ、右判決は我が国において被告に効力が及ばず、したがって右の場合に当たることとなるから、本件外国判決は、結局のところ、乙事件原告は甲事件原告に対し三〇万ドルの金銭支払請求権を有することを確定したにとどまり、本件地位に関する原告らの間の権利帰属を確定したものではない。そして、乙事件原告が、甲事件原告と知り合ってからは、甲事件原告方を連絡先オフィスとし、被告の製品の販売活動の一環としてのミーティング等も甲事件原告が実質的に行い、昭和六一年二月に乙事件原告が突然アメリカ合衆国に帰国した後は、甲事件原告が単独で本件地位に基づき下位のディストリビューターに対する援助、育成活動の義務を履行し、本件地位を維持してきたのであるから、原告らが離婚し、かつ、本件地位の帰属に関する合意が両者間で成立しない現在においては、本件地位は原告らの各二分の一の割合による準共有状態にあるものというべきである。そこで、甲事件原告は、甲事件において、甲事件原告が本件地位の二分の一を有することの確認を求める。

(三) 被告の主張

乙事件原告との関係で、甲事件原告の主張を援用するが、甲事件原告との関係では、右主張を争う。

2  本件外国判決は、我が国において原告らの間で効力を有するか。

(一) 乙事件原告の主張

本件外国判決は、民訴法二〇〇条各号の条件を充足するから、我が国において承認され、原告らを拘束する結果、乙事件原告は、前記のような右判決の趣旨に従い、本件地位を単独で取得したものというべきである。

(二) 被告及び甲事件原告の主張

本件外国判決につき我が国とアメリカ合衆国バージニア州との間に民訴法二〇〇条四号所定の「相互の保証」の条件が充足されていることは争わないが、右判決が我が国において原告らを拘束する旨の乙事件原告の主張は争う。

3  本件外国判決は、我が国において乙事件原告と被告との間で効力を有するか。

(一) 乙事件原告の主張

本件外国判決は、被告に対し、被告が保管する原簿中の原告らの共同名義による本件地位に関する記録の変更を命じているところ、バージニア州法においては、右判決は被告に対しても拘束力を持つこととされているから、本件外国判決は、我が国においても、被告に対する関係で承認され、乙事件原告と被告との間で効力を有するといわなければならない。そこで、乙事件原告は、乙事件において、被告に対し、乙事件原告が本件地位を単独で有することの確認を求めるとともに、本件地位の共同名義を乙事件原告の単独名義に変更することの承認を求める。

(二) 被告及び甲事件原告の主張

被告は、本件外国判決における当事者ではないため防御の機会を与えられず、審理に関与する手続的保障を受けていないから、それにもかかわらず、被告が我が国において右判決の効力を当然に甘受せざるを得ないとすれば、手続的正義に反し、公序良俗に違反するというほかはなく、本件外国判決は我が国において被告に効力が及ぶ余地のないことは明らかである。

4  被告は、乙事件原告に対し、本件地位の共同名義を乙事件原告の単独名義に変更することの承認義務を負うか。

(一) 乙事件原告の主張

(1) 仮に、本件外国判決が我が国において被告との間で効力を有しないとしても、被告は、乙事件原告との間で締結したディストリビューター契約上、共同で本件地位を行使していた夫婦が離婚し、一方に単独で本件地位を帰属させる場合には、その名義変更につき承認すべき義務がある。また、本件外国判決は民訴法二〇〇条各号の条件を充足するから、我が国においても、原告らの間では乙事件原告が単独で本件地位を有することになることは前記のとおりであり、本件地位の取得から現在に至るまでの経緯に照らし、原告らの外に本件地位を取得したことを主張し得る第三者は存在しないこと、離婚した夫婦の共同名義の地位をその一方の名義に変更するのは、地位の分割や第三者への譲渡とは異なり、被告との権利関係に実質的な変更はなく、また本件地位が組み込まれている上下の系列への影響もないこと、そもそも本件地位は乙事件原告が昭和五四年に単独で取得した後、自らこれを維持発展させてきたものであり、昭和六〇年の婚姻により甲事件原告との共同名義になったものの、実質的に共同運営した期間は同年七月から昭和六一年二月までの七か月間にすぎず、乙事件原告の単独名義にしたとしても権利義務の主体に実質的な変化はないこと、乙事件原告は、平成六年一二月二八日、「アムウェイ倫理綱領・行動規準」規則4―11に基づき浦和市在住の廣島久三郎、陽子夫妻を本件地位の職務代行者に選任し、右両名は、平成七年一月八日、これを受諾したことなどの事情に照らせば、被告は、信義則上からも、乙事件原告が単独で本件地位を有することの名義変更につき承認義務を免れないというべきである。そこで、乙事件原告は、乙事件において、被告に対し、前同様の地位の確認と名義変更の承認を求める。

(2) 仮に、被告に右承認義務を認めることができないとしても、そもそも被告の定める「アムウェイ倫理綱領・行動規準」には、共同で本件地位を行使していた夫婦が離婚し、一方に本件地位を単独帰属させる場合に、被告の承認を要する旨の定めはなく、実質的にも系列の上位及び下位のディストリビューターに悪影響を与えるおそれはなく、権利義務の主体の変動はほとんど生じないばかりでなく、仮に承認を要するとすると、本件のように離婚に伴う財産分与の裁判で一方への帰属が決せられた場合であっても、離婚した夫婦は共同で本件地位を行使しなければならないこととなるが、これは不可能を強いるものであることなどにかんがみれば、被告の承認を要しないと解すべきである。したがって、被告は、その承認の有無にかかわらず、乙事件原告が本件地位を単独で有していることを争えないから、乙事件原告の請求のうち、乙事件原告が本件地位を単独で有することの確認を求める部分は理由がある。

(二) 被告の主張

本件地位を夫婦共同で有する者が離婚により一方の単独名義にする場合、「アムウェイ倫理綱領・行動規準」によると、「アムウェイ・ディストリビューター・パートナー追加・削除・名義変更申請書」を連署の上で被告に提出し、被告が書面により承認することを要する旨定められている。本件地位は、単なる財産権にとどまらず、被告に対する各種の義務を伴うものであるから、その移転に当たり、乙事件原告が右義務を履行できるか十分審査し、承認するか否かを決定し得るのは当然であって、被告が当然に乙事件原告の主張するような承認義務を負うものではない。なお、乙事件原告は、本件地位の職務代行者として廣島久三郎、陽子夫妻を選任した旨主張するが、職務代行者は、現在ダイレクト・ディストリビューターの地位にあるか、少なくとも一定期間ダイレクト・ディストリビューターの地位にあった者でなければ不適格というべきであって、過去にダイレクト・ディストリビューターの経験のない廣島夫妻を本件地位の職務代行者として認めることはできない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件外国判決による原告らの間の本件地位の帰属の確定)について

1  証拠(甲ロ一、一〇の各1、2、一一の1、3、一四ないし一六、二二の各1、2)によれば、以下の事実が認められる。

本件外国判決は、本件地位が原告らの共同名義になっていることにより夫婦の共有財産に当たること、その評価額が三〇万ドルであることを認定した上、本件意見書の事実認定及びバージニア州法に基づき、乙事件原告が本件地位を単独で有すると判断して、甲事件原告が本件地位における権利を乙事件原告に直ちに移転すべきこと、甲事件原告は本件地位における権利を今後一切有しないことを命じ、さらに、乙事件原告が甲事件原告から三〇万ドルの支払を受ける権利を有し、甲事件原告は本件地位におけるすべての権利を乙事件原告に譲渡することにより、右支払義務を完全に消滅させることができる旨判示している。そして、右に引用されている本件意見書の事実認定によれば、(1) 乙事件原告は本件地位を甲事件原告との婚姻以前から有していた、(2) 原告らの婚姻期間中は本件地位の価値の増加はなく、その間、原告らは本件地位を維持する上で同等の貢献をしていた、(3) 甲事件原告は乙事件原告との別居後に本件地位を維持するために努力してきたが、本件地位に伴うボーナスの一部の支払を受けたことにより償われている、(4) したがって、甲事件原告が乙事件原告に対し本件地位を移転するのが公平である、というのである。

2 右認定事実によれば、本件外国判決は、本件地位は、原告らの共同名義になっていることにより夫婦の共同財産に当たるが、乙事件原告が甲事件原告と婚姻する以前から有していたもので、原告らの婚姻期間中にその価値の増加はなく、その間、原告らは本件地位を維持する上で原告らが同等の貢献をし、夫婦の別居後に甲事件原告がした本件地位を維持するための努力もボーナスの一部の支払を受けることで償われているところから、甲事件原告が乙事件原告に対し本件地位を移転するのが公平であるとして、乙事件原告が本件地位を単独で有するものと判断していることが明らかである。

もっとも、本件外国判決は、他方において、乙事件原告が甲事件原告から三〇万ドルの支払を受ける権利を有し、甲事件原告は本件地位におけるすべての権利を乙事件原告に譲渡することにより、右支払義務を完全に消滅させることができる旨判示していることは前示のとおりであり、証拠(甲ロ一一の1、3)によれば、本件外国判決の基礎とされた本件意見書は、本件地位は、原告らの共同所有財産であるから、共同所有に係る夫婦財産の分割、譲渡等を定めたバージニア州家事親族法20―107.3Cの規定に基づいて右権利の移転が認められるが、仮に当裁判所が譲渡を命ずる権限を欠いているときは、当裁判所は、乙事件原告に甲事件原告に対する三〇万ドルの金銭支払請求権を認め、甲事件原告はこれを支払う代わりに本件地位における権利を譲渡する選択権を有するとしていることが認められる。そして、本件外国判決には、右のとおり、本件意見書にいう「仮に当裁判所が譲渡を命ずる権限を欠いているときは」との仮定説示部分は見当たらないが、この点について、甲事件原告及び被告は、その趣旨は本件意見書と同一であり、右仮定説示部分は、本件外国判決の効力が他州又は外国で認められない場合を指すところ、右判決は我が国において被告に効力が及ばず、したがって右の場合に当たることとなるから、本件外国判決は、結局のところ、乙事件原告は甲事件原告に対し三〇万ドルの金銭支払請求権を有することを確定したにとどまり、本件地位に関する原告らの間の権利帰属を確定したものではない旨主張する。確かに、本件外国判決が判示する乙事件原告の甲事件原告に対する三〇万ドルの金銭支払請求権が、乙事件原告が本件地位を単独で有するとの前記判断とどのような関係に立つのか、乙事件原告が右請求権を行使した場合には甲事件原告が本件地位を取得することとなるのか、甲事件原告が右金銭支払義務の代わりに本件地位における権利を譲渡するということが、本件地位の乙事件原告への単独帰属を認めることとどのような関係になるのかは、証拠上、必ずしも明らかではない。

しかしながら、甲事件原告及び被告の右主張についてみるに、本件外国判決の文言上から右主張のような趣旨まで読み取ることができるかは甚だ疑問であるばかりでなく(当事者になっていない被告について他州又は外国において判決効が及ばないことを慮ったものと考えることは、文言上無理があるといわざるを得ない。)、乙事件原告が、右主張によれば甲事件原告に対して取得したとされる三〇万ドルの金銭支払請求権を行使したことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲ロ一四、一五の各1、2)によれば、甲事件原告は、本件外国判決が確定した後の平成四年一一月に、アメリカ合衆国における代理人を通じて、乙事件原告に対して本件地位を三〇万ドルで購入したい旨申し入れるとともに、被告に対しても本件地位を乙事件原告から三〇万ドルで購入する交渉を行う予定である旨通告したことが認められ、これによれば、甲事件原告も、本件外国判決により本件地位が乙事件原告に帰属したことを前提にするかのような行動をしていることが窺われるのである。また、本件外国判決にはない本件意見書の仮定説示部分は、バージニア州家事親族法20―107.3Cの前記規定に基づく裁判所の譲渡命令の権限に関する説示部分の直後に続くものであることは、前示のとおりであるところ、右規定中には、裁判所は、一定の場合(20―107.3Gに規定する例外の場合)を除き、夫婦各自の財産又は共同所有でない夫婦財産についての分割又は譲渡を命ずる権限を有しない旨定められている(甲ロ一〇の1、2)ことからすると、本件意見書作成の段階では、裁判所が譲渡命令の権限を有しない場合のあることを慮り、前記のとおりの仮定説示をしたが、終局判決の段階では夫婦の共有財産であるとの判断に到達したことに伴い、右仮定説示部分を判決書において削除し、前示のとおりの本件外国判決の説示内容になったのではないかとも推察される。そうとすれば、本件外国判決が、甲事件原告及び被告の主張するように、乙事件原告の甲事件原告に対する三〇万ドルの金銭支払請求権を確定したにとどまり、本件地位に関する原告ら間の権利帰属を確定したものでないということは困難であるというほかなく、右主張は採用できない。

3 そうすると、本件外国判決は、原告らの間において、乙事件原告が単独で本件地位を有することを確定したものというべきである。また、甲事件原告は、本件外国判決では、本件地位に関する原告らの間の権利帰属が確定されていないことを前提にして、本件地位が原告らの各二分の一の割合による準共有状態にある旨主張し、甲事件において、甲事件原告が本件地位の二分の一を有することの確認を求めているが、右主張の前提を欠くことは以上の認定及び判断に照らして明らかであるから、甲事件原告の請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

二  争点2(本件外国判決の原告らの間における効力)について

証拠(甲ロ一の1、2)によれば、本件外国判決につき民訴法二〇〇条一号ないし三号所定の条件が充足されていることは明らかであるから、進んで、同条四号の「相互の保証」の条件を充たしているか否かについて検討するに、本件外国判決は離婚に伴う夫婦の共有財産の所有権移転等を求める訴訟についてのものであることは前示のとおりであるところ、証拠(甲ロ一八、三二の各1、2)によると、アメリカ合衆国バージニア州においては、統一外国金銭判決承認法が採択されているが、同法は、税金、科料若しくはその他の罰金に関する判決又は夫婦若しくは家族に関する事件を援護するための判決を除く、ある金額の金銭の回復を認容又は拒絶する外国判決の承認の要件を定めているものであって、本件のような離婚に伴う夫婦の共有財産の所有権移転等を求める訴訟に関する外国判決には適用の余地がないことが認められる。しかし、さらに証拠(甲ロ三二、三三、三八の各1、2)をみると、同州の判例上、同法の適用のない外国判決であっても、いわゆる礼譲(com-ity)の原則に従って承認され、離婚に関する外国判決を承認するための条件は、(1) 外国裁判所が当事者及び当該事項に対して管轄権を有すること、(2) 外国裁判所によって適用された手続法及び実体法が、道徳規範、社会的価値、人権及び公序の見地から、バージニア州のものと合理的に比較可能であることの二点であるとされていることが認められるのである。そして、右(1)は民訴法二〇〇条一号と、(2)は同条三号とほぼ同趣旨に出たものと解することができるから、バージニア州においては、我が国の裁判所がした本件外国判決と同種類の判決は、民訴法二〇〇条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件の下に承認されるものと認めることができ、本件外国判決は「相互の保証」の条件を充たしているものと解するのが相当である(なお、右のとおり相互の保証の条件が充足されていることについては、いずれの当事者も争わない。)。

よって、本件外国判決は、我が国において原告らの間で効力を有するというべきである。

三  争点3(本件外国判決の乙事件原告と被告との間における効力)について

証拠(甲ロ一の1、2)によれば、本件外国判決は、甲事件原告が本件地位における権利を乙事件原告に移転すべきであるとの判断を受けて、被告に対し、本件地位に関し被告が保管する記録を変更する権限を与えられ、これを指示される旨判示していることが認められる。ところで、乙事件原告は、本件外国判決が、右のとおり、被告に対し、本件地位における権利の移転に関する被告保管の記録の変更権限を付与し、その旨の変更を指示している点にかんがみ、バージニア州法においては、右判決は被告に対しても効力を持つこととされているから、我が国においても、被告に対する関係で承認され、乙事件原告と被告との間で効力を有する旨主張する。そして、バージニア州家事親族法20―107.3Cの規定が、裁判所は、一定の場合(20―107.3Gに規定する例外の場合)を除き、夫婦各自の財産又は共同所有でない夫婦財産についての分割又は譲渡を命ずる権限を有しない旨定めていることは前示のとおりであり、証拠(甲ロ二二の1、2)によれば、右20―107.3Gの規定中には、裁判所は、使用者の信託受託者、制度の管理者又はその他の利益保持者から一方当事者に対して直接に権利が譲渡されるべきことを命ずることにより、夫婦持分の一定割合の直接的な支払を命ずることができる旨の定めがあることが認められる。しかしながら、右規定の趣旨は必ずしも明確ではなく、乙事件原告の主張のごとく、本件外国判決がバージニア州法においては被告に対しても拘束力を有するものであるかは、にわかに断定し難いところであるが、いま仮に本件外国判決がバージニア州法上被告との間でも効力を有すると解するとしても、被告は本件外国判決の当事者でないことは明らかであって、被告が呼出、命令の送達を受け又は応訴したこと、被告が原告らとの間で判決の効力を及ぼされるべき何らかの実体的な関係があることについては何ら主張、立証がない以上、我が国の公序(民訴法二〇〇条三号)に反するといわざるを得ない。したがって、乙事件原告の前記主張は採用の限りではないから、乙事件原告が主張するように、本件外国判決それ自体から被告に対する本件地位の確認請求と名義変更請求を理由づけることは、困難であるというほかはない。

四  争点4(本件地位の名義変更に関する被告の承認義務)について

1  前記基礎となる事実と証拠(甲イ一ないし三、乙一、二)によれば、(一)被告は、家庭日用品等の輸入、製造及び販売を目的とする会社であり、ディストリビューターと称する登録販売員との間でディストリビューター契約と称する契約を締結した上、ディストリビューターが、他のディストリビューターのスポンサーとなることにより上位、下位の関係で系列グループを構成して直接販売活動を行い、系列内の上位の者から被告の製品を購入して下位の者に販売し、自己及び下位の者の購入実績に応じて各種名目の報奨金を得られるとともに、責任と義務を負う仕組みをとっていること、(二) 被告は、原則として全ディストリビューターに適用される「アムウェイ倫理綱領・行動規準」を定めているが、その規則3及び4には、ディストリビューターの責任と義務の内容として、被告製品を販売する際には製品の使用方法や用途等を説明し、品質等について誇大な表現をせず、関係法令、被告の規定や指導に従うこと、自らがスポンサーした下位のディストリビューターの活動について教育、指導、援助を惜しまず、下位のディストリビューターに対して成績別ボーナスを所定の期限までに支払うことなどが定められていること、(三) ダイレクト・ディストリビューター規約第二条には、ディストリビューターの地位よりも上位に当たるダイレクト・ディストリビューターの責任と義務の内容として、関係諸法令や「アムウェイ倫理綱領・行動規準」を遵守し、アムウェイの指導、要請に従って行動するとともに、「アムウェイ・セールス・マーケティング・プラン」に従ってアムウェイ製品の販売活動を行い、自己がスポンサーをしたグループの指導、教育をし、そのグループに属するディストリビューターとアムウェイとの間に行われた取引によって生じた債権債務に関し、アムウェイに対し責任を負い、また、アムウェイから受領した成績別ボーナスをグループに属するボーナス受給資格のある全ディストリビューターに対し支払うことなどが定められていること、(四) 被告は、ディストリビューターが「アムウェイ倫理綱領・行動規準」に違反した場合には、諸般の事情を考慮した上ディストリビューター資格の解約処分を含む制裁措置をとることができ、また、ダイレクト・ディストリビューター規約第二条の違反がある場合には、ダイレクト・ディストリビューター資格を解約できること、(五) ディストリビューターがその地位を維持するためには毎年更新手続を行うことを要し、被告が審査の上承認したものについて更新され、ダイレクト・ディストリビューターがその地位を維持するためには、毎会計年度内に所定の被告商品の購入実績を再度挙げるとともに、毎年更新手続をしなければならないこと、(六) 「アムウェイ倫理綱領・行動規準」規則8―1は、ディストリビューター資格を有する二人が結婚した場合には、双方又はいずれか一方のみの資格を維持することもできるものとする旨定め、規則8―2には、「夫婦のディストリビューターが離婚した場合、そのディストリビューター資格は、二つに分割することができる。ただし、系列上位および下位のディストリビューターに悪影響を与えない方法で分割しなければならない。ただし、いかなる場合にもアムウェイの書面による承認を得なければならない。」との定めがあることが認められる。

2 右認定事実に基づいて、乙事件原告が甲事件原告との共同名義による本件地位を乙事件原告の単独名義とすることにつき被告が承認義務を負うか否かについて検討するに、「アムウェイ倫理綱領・行動規準」規則8―2が離婚した夫婦のディストリビューターから被告に対してするディストリビューター資格の分割請求につき、いかなる場合にも被告の承認を得ることを要するとした趣旨は、前示のとおりディストリビューターの地位が上位、下位の関係で系列グループを構成して販売活動を行い、系列内の上位の者から被告製品を購入して下位の者に販売し、自己及び下位の者の購入実績に応じて各種の報奨金を得るとともに、ディストリビューターの地位に伴って一定の責任と義務を負う仕組みになっているため、分割方法のいかんでは、系列上位及び下位のディストリビューターに悪影響を与え、また、所定の責任と義務を履行し得ないことにもなりかねないところから、その判断を被告に留保することにあるものと認められる。しかし、他方において、夫婦各人のディストリビューターの地位に伴う販売活動の実情、所定の責任と義務を果たすための能力、適性等は被告において既にこれを把握しているものと考えられるばかりでなく、一般的にディストリビューターの地位に伴う右責務は通常夫婦の一方のみでも履行し得ないものではなく、むしろ一方が単独ででも販売及びスポンサー活動を継続すれば被告自身の利益にも資することとなり、義務の不履行があったときは被告は解約を含む制裁措置をとり得るのである。こうした諸点を勘案すると、被告は、離婚した夫婦のディストリビューターからディストリビューター資格の分割請求ないしそれに伴う被告保管の記録上の名義変更承認請求を受けた場合には、系列上位及び下位のティストリビューターに悪影響を与え、また、所定の責任と義務を履行し得ないなど特段の事情のあるときを除き、これを承認すべき契約上の義務を負っているものと解するのが相当である。

3  本件において、原告らの間では、本件地位は乙事件原告が単独でこれを有していることが確定していることは前示のとおりであるところ、前記基礎となる事実と証拠(甲ロ一一の1、3、二四、二五、二七、二九の各1、2、三七)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、(一) 乙事件原告は、被告に対し、被告が保管するダイレクト・ディストリビューター・マスター・ファイルの原簿に甲事件原告との共同名義で記録されている本件地位の名義を乙事件原告の単独名義に変更することの承認を求めているのであって、本件地位が組み込まれている上位及び下位のディストリビューターの系列に実質的な変更を生じさせるものではないこと、(二) 乙事件原告は、甲事件原告と婚姻する以前から本件地位を単独で有していたが、婚姻によって共同名義にしたという経緯があり、原告らの婚姻期間中は本件地位の価値の増加はなく、その維持につき原告らが同等の貢献をし、離婚に伴い再び乙事件原告の単独名義とすることは、いわば元の状態に戻すにすぎないこと、(三) 乙事件原告は、昭和五四年に来日してディストリビューターの地位を取得して以来、昭和六一年に離日するまでの間、積極的な販売活動と系列グループの指導、教育を行い、独力で被告の定める規準に合致する実績を挙げ、エメラルド・ダイレクト・ディストリビューターの地位に到達したものであって、ディストリビューターとしての責務を果たす能力を備えていると考えられること、(四) 被告は、現在、甲事件原告が本件地位の帰属を争い、本件外国判決の内容が一義的に明確ではないことなどを理由に、原告らの間の紛争が完全に解決するまで、乙事件原告の行うべき活動である下位のディストリビューターに対する報奨金の分配などを自ら行い、乙事件原告の関与を排除しているが、アメリカ合衆国に在住している乙事件原告としては、早晩来日して販売及びスポンサー活動を行い、本件地位に伴う所定の責任と義務を果たす用意があり、平成六年一二月二八日には、「アムウェイ倫理綱領・行動規準」規則4―11に基づき、当面乙事件原告に代わり右責務を果たす意思及び能力を有する職務代行者として、以前乙事件原告にスポンサーされたディストリビューターであった浦和市在住の廣島久三郎、陽子夫妻を選任し、平成七年一月八日に右両名がこれを受諾し、乙事件原告は、同年三月二七日の本件口頭弁論期日において、右規則の定めるところに従い、右選任の事実と代行者の氏名、住所及び電話番号を被告に通知したことが認められる。なお、右職務代行者の選任の点について、被告は、職務代行者は、現在ダイレクト・ディストリビューターの地位にあるか、少なくとも一定期間ダイレクト・ディストリビューターの地位にあった者でなければ不適格というべきであって、過去にダイレクト・ディストリビューターの経験のない廣島夫妻は職務代行者としての適格性を欠く旨主張するが、「アムウェイ倫理綱領・行動規準」規則4―11によっても、右主張のような趣旨を窺うことはできず、他に廣島夫妻の職務代行者としての適格性を疑うに足りる証拠もない。

右認定事実からすると、本件地位の名義を乙事件原告の単独名義に変更するにつき、本件地位が組み込まれている系列上位及び下位のディストリビューターに悪影響を与え、また、所定の責任と義務を乙事件原告及びその職務代行者において履行し得ないものとまでは断定することはできず、他に前記特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、被告は、乙事件原告の名義変更請求についてこれを承認すべき義務があるといわなければならない。また、被告の前示対応等からすれば、乙事件原告は、被告との間で本件地位を単独で有することの即時確定の利益を有するものというべきである。

第四  結論

よって、甲事件原告の請求は理由がないからこれを棄却し、乙事件原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九四条後段を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官篠原勝美 裁判官生島弘康 裁判官岡崎克彦)

別紙目録

乙事件原告と被告との間で昭和五四年五月二三日付けで締結されたディストリビューター契約及び昭和五五年八月ころ締結されたダイレクト・ディストリビューター契約に基づく、甲事件原告及び乙事件原告の共同名義によるエメラルド・ダイレクト・ディストリビューターと称する契約上の地位(DD番号三九六七番)

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